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高松高等裁判所 平成7年(ネ)77号 判決 1995年6月29日

控訴人(附帯被控訴人)

甲野春子

右訴訟代理人弁護士

草薙順一

被控訴人(附帯控訴人)

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

一色平格

主文

一  本件控訴に基づき、原判決主文第二、三項を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、金九〇〇万及び内金二〇〇万円に対する平成三年八月二九日から、内金七〇〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一五九三万八九三五円及びこれに対する平成三年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  附帯控訴の趣旨

1  原判決主文第二項を取り消す。

2  控訴人の慰謝料請求及び財産分与の申立てを棄却する。

第二  事実関係 <省略>

第三  当裁判所の判断(不服申立てのない離婚請求についての判断はしない。)

一  慰謝料請求について

控訴人と被控訴人との婚姻関係の破綻の経緯及びその原因についての認定判断は、原判決「理由」欄一の記載と同じであるから、これを引用する。

右認定の事実によれば、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、訴外乙川との親密な交際の継続という被控訴人による不貞行為に準ずる背信的行為と被控訴人の控訴人に対する度重なる暴力行為とが主な原因となって破綻するに至ったものと認められるから、被控訴人は、これにより控訴人が受けたと推認し得る精神的苦痛に対する慰謝料支払義務を負うことは明らかであるところ、右認定の事実関係並びに控訴人と被控訴人の年齢及び婚姻期間等を考慮すれば、慰謝料の額は二〇〇万円が相当である。

二  財産分与について

1  証拠(甲五、六、乙四、五、六)によれば、被控訴人は、平成元年二月一〇日、岡崎隆寿との間で、代金一八四八万円で本件土地の売買契約を締結し、同年六月三〇日、所有権移転登記を経由したこと、被控訴人は、右売買契約の日、岡崎産業株式会社との間で、本件土地上に本件建物を代金一六四一万二五〇〇円で建築する請負契約を締結し、同年一〇月末ころ、完成した本件建物の引渡を受けたことが認められる。

ところで、証拠(甲四の1〜9・11〜17・19〜22、九、乙一の1〜3、二、七の1・2、八の1、控訴人本人)によれば、本件土地の売買代金、本件建物の建築請負代金及び内装関係工事代金、各種登記手続等費用並びに家具・電気製品代金等として合計四一〇〇万円余りが支出されているが、これらの支払いは、被控訴人が実父甲野太郎との間の家事調停(乙八の1)に基づいて支払いを受けた二四四〇万円、控訴人が訴外国金から借り受けた七〇〇万円、被控訴人の預金の払戻金約三〇〇万円のほか、控訴人の拠出金約七〇〇万円をもって賄われたものと認められる(なお、被控訴人は、訴外国金からの借入金七〇〇万円がもっぱら控訴人の営んでいたカイロプラクチック(整体術)の準備資金等として費消されたと主張しているけれども、前掲証拠によれば、右金員から本件建物の建築請負代金の一部や電気製品代金等の支払いに充てられていることが明らかである。)。

2  証拠(甲一、三、一三の1〜9、乙九の1・2 控訴人本人、被控訴人本人)によれば、控訴人は、満五八歳で身体に障害を有するものの、カイロプラクター(療術士)として稼働して収入を得ているのに対し、被控訴人は、満七四歳で無職であり、年金収入に頼っていること、本件土地建物には、訴外国金を権利者とする抵当権が設定されており、訴外国金からの借入金については今後事実上被控訴人において返済していくことになること、控訴人がカイロプラクチックの営業を開始した平成元年三月以降、被控訴人から控訴人に対して生活費が渡されなくなっていたことが認められる。

3  以上認定の事実関係に照らせば、被控訴人は、控訴人に対し、離婚に伴う財産分与として、七〇〇万円を給付するのが相当である。

三  抗弁について

被控訴人は、抗弁1ないし3のとおり、控訴人に対し、受託保証人の事前求償債権、不当利得返還請求権及び慰謝料請求権を有しているとし、これらを自働債権として、控訴人の被控訴人に対する前記慰謝料請求権及び財産分与請求権と相殺する旨主張する。

しかしながら、控訴人の被控訴人に対する慰謝料請求権を受働債権とする相殺は、民法五〇九条に反し許されない。また、財産分与請求権は、一個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確であるから、右形成効発生前の財産分与請求権を受働債権として相殺することはできないというべきである。

したがって、右抗弁は、主張自体失当である。

四  結論

以上によれば、控訴人の慰謝料請求は、金二〇〇万円及びこれに対する被控訴人への訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成三年八月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、財産分与の申立てについては、金七〇〇万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを命ずるのが相当である。そうすると、原審の慰謝料請求に関する判断は相当であるけれども、財産分与に関する判断は相当でなく、控訴人の本件控訴は一部理由があるが、被控訴人の附帯控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邊貢 裁判官豊永多門 裁判官豊澤佳弘)

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